注意!
視点 十四松
六つ子がスマホ持ち
最初に心を奪われたのは幼い頃に見たアニメの中の王子様だった。綺麗な服を身に纏い、颯爽と動く姿はぼくの心を奪った。幼いぼくはこう思った。
(ああ、ぼくも王子様になりたい…)
けど、他の兄弟はアニメの王子様を見て、「ダサい」「カッコ悪い」と言った。だから、この想いは兄弟には言わないことにした。
それから何年か経って、王子様とは程遠いニートになっているが、あの煌びやかな服を着たいという思いは消えはしなかった。せめて形だけでもいいから王子様になりたいと思った。
今日も今日とて暇を持て余して、兄弟がいる居間でネットを見ているとコスプレをしている人の写真を見つけた。そこにはアニメのキャラ等に扮している人たちの写真がいっぱいあった。気になってコスプレのことを調べてみると王子様に扮している人の写真を見つけた。それを見た瞬間、王子様になれるんだと思い、すごく興奮した。
(あぁ、こんなぼくでも王子様になれるんだ。あの憧れだった王子様に少しでも近づけるんだ)
そう思っていたら胸がドキドキして顔がニマニマしてきた。嬉しい、嬉しい、嬉しい。
「十四松、何ニマニマしてんの?」
「十四松兄さん、どうしたの?」
はっ、兄弟がいること忘れてた。王子様のコスプレを見てたって言ったらバカにされるから、野球のニュース見てたことにしよう。
「野球のニュースを見てたマッスルマッスル!」
「野球か〜好きだねー」
「なーんだ、野球か。てっきりエロ画像見てたかと思った」
「居間でエロ画像見るやつお前くらいだろ。」
よかった、なんとか誤魔化せたみたい。どうやってしたらいいのか兄弟がいない時に調べよう。
やった!やった!ついに、王子様の衣装が届いた!あれから色々と調べて、王子様の衣装を作るのは大変で見つかる可能性があったから、コスプレを作ってくれるところにお願いして作ってもらった。家だとバレるから営業所止めにしてもらって、兄弟がいない日に取りに行った。帰りにイヤミに段ボールの中身聞かれて困ったけど…。
家に帰って、和室の部屋に入って段ボールを開けるとぼくの理想通りの王子様の衣装が入っていた。
(ああ、やっとだ!長い間叶えたかった夢がついに叶うんだ!)
ドキドキしながら袖を通す。上の服を着て、ズボンを履く。慣れてる動作なのに、すごくドキドキする。小物をつけ、最後にマントを羽織るとそこには王子様になったぼくがいた。スマホで写真を撮って、自分の姿を見てみると涙が出てきた。
(王子様とはほど遠いぼくだけど、この瞬間だけでも王子様になれたんだ!嬉しい!)
少し泣いて、その後は王子様になりきってみた。乗馬に乗ってる真似、剣を持って悪人と闘う真似。
(すごく楽しい!久しぶりに野球以外でイキイキしてる。)
そして、1番したかったことをする。悪人を成敗する時にいうセリフ。自分で考えたんだ。
「我は、赤塚王国の十四松という。この国を荒らすものはこの十四松がゆるさ」
「何してるの、十四松。」
なんで、なんで帰ってきたの?しかも、兄弟みんないる。…終わった。完全に終わった。ぼくはめちゃくちゃパニックになっていた。
「みんな、早かったね…」
「そうかな、もうすぐ夕飯の時間だから帰ってきたんだよ。」
夕飯の…時間か…そうか、そんな時間だったんだ。ぼくはどうすればいいか分からなくなり俯いた。
沈黙が怖い。みんな何も言わない。からかうのか、ひくのか、それとも王子様の衣装を破くのか…。頭の中がグルグルとしているとおそ松兄さんの声が沈黙を破った。
「とりあえず、十四松以外は子ども部屋行こうぜ。十四松は父さん母さんが帰ってくるかもしれないから、脱いどこうぜ。」
そう言ってみんな子ども部屋に行った。和室にはぼく1人なった。言われた通り衣装は脱いで、いつもの服に着替えた。和室の隅に行って体操座りをした。子ども部屋で何話しているのかな…みんなには嫌われたくないなぁ…。恐怖でまた涙がでていると。誰かが近づいてくる音がした。さっきより、体を縮こめて待つことにした。
「十四松兄さん?ボクだよ。トド松。」
「…トド松?」
「うん、さっきね、みんなで話してたんだ。先に結論言うと『十四松兄さんの好きにしたらいい』ってなったよ。」
「えっ?」
「最初見た時はびっくりしたけど、誰にも迷惑かけてないし、十四松兄さんが楽しいと思うなら続けたらいいよ。」
「ひいたりしない?」
「う〜ん、趣味って人それぞれだからね。上の4人もびっくりはしたけどひいてはなかったよ。だから、その素敵な趣味続けてね。」
そう言ってトド松は上に登って行った。よかった、みんながひいたり、嫌ったりしなくて。
その後、ぼくはみんなのプレゼントとして剣を貰った。そして、ぼくが王子様になってみんなに悪人になったもらったりしてる。今後、兄弟の新しい趣味を発見した時に、肯定出来たらいいなぁ。